ちょっとした心遣いがあれば、ことばの壁も越えられる。今日から実践できる、訪日観光客のおもてなし。

公開日: 2017年3月1日水曜日 おもてなし 浅口市 矢掛町

日本を訪れる外国人観光客、本当に増えましたね。東京オリンピックを控え、受け入れ態勢もだいぶ進んではきたものの、観光に携わる人々のなかには、もっと快適に、もっと日本を楽しんでもらいたい、でも、ことばと文化の壁が...と悩んでいる方も多いかもしれません。

そんななか、倉敷市は外国人の視点から高梁川流域のおもてなしを検証し、改善していこうという趣旨のもとに外国人訪問者対応研修を行いました。私も、一般社団法人国際交流サービス協会さんによる浅口市と矢掛町の視察に同行させていただきました。「おもてなし体験」をされるのは、イギリス人のジェイソンさんとアメリカ人のジェナさんのJJコンビ。お2人とも日本語堪能です。

同行させてもらって感じたのは、始めから「完璧な対応」を目指さなくても、ちょっとした心遣いがあれば、その施設での快適さや印象が大きく変わるだろうということです。JJコンビにいただいた、どんな施設でも活かせるアドバイスをまとめながらご紹介していきますね。

まずは浅口市から。

浅口市の丸本酒造さんにて。

酒蔵として初めて国の「登録有形文化財」に指定されたという丸本酒造さんでは、10月から3月の酒の仕込み時期に蔵見学を行っています(要予約)。「酒造り」という日本の伝統文化そのものを真摯に伝え、受け継いでいこうと、原料のお米も自ら育てていらっしゃいます。そのこだわりの醸造過程を見学させていただきました。

醸造を行う伝統的な蔵の中は、米粒ひとつ落ちていることのないように、という徹底した衛生管理がなされています。見学者も入念に手を洗い、衛生キャップをかぶって白衣に着替え、何度もスリッパを履き替えながら蔵の中を見せていただきます。

案内してくださるのは、営業部の高橋さん。お米や醸造過程、清掃ポリシーなどを丁寧に英語で説明してくれます。一方的に話すのではなく、お客様にクイズを出したり、意見を伺ったり、さらに移動中にも積極的にコミュニケーションをとりながら案内してくださるので、とても温かく、柔らかい雰囲気のなかでツアーが進んでいきます。「楽しんでもらいたい」という気持ちが伝わる案内で、「とてもわかりやすかった!」とJJコンビの意見も一致。

★ここで「おもてなし向上ポイント」
スリッパは、いろいろなサイズを用意していますか?

靴を脱ぐ場所の多い日本では、よくスリッパが用意されていますが、サイズの合わないスリッパはとても歩きづらいもの。特に、狭い階段の上り下りは大変だし、危険です。外国人のお客様のなかには、日本人より足のサイズがかなり大きな方もいらっしゃいます。30cmくらいの大きなスリッパや、子供用のサイズを用意しておけば、歩きづらいというストレスがかなり軽減されます。

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続いてお邪魔したのは、かも川手延素麺株式会社さん。ここでは、手延べ麺造り体験ができます(2週間前までに要予約)。


「体験」ものは少々ことばがわからなくても、楽しんでできますね。今回は日本語堪能なお2人が相手でしたので説明も日本語でしたが、ポイントだけ簡単にまとめた、見てわかる案内シートを多言語で用意しておけば、外国人旅行客の対応もスムーズにいくのではないかなと思いました。

「かも川手延麺師大学」の修了証をいただけます。

お昼には、手延べうどんをいただきました。包丁切りのうどんとは違う、なめらかーな口当たりが優しい!

★ここで「おもてなし向上ポイント」
お座敷や小上がりではくつろげないかも?

椅子に座ることがほとんどの外国人のお客様は、お座敷が苦手かもしれません。掘りごたつスタイルなら、日本の雰囲気も味わえるし、座りやすいですね。もしくはテーブル席についていただくほうがくつろげるのでは?メニューは、英語(もしくは他の言語)表記のものがあれば役立ちますが、用意できない場合はせめて写真入りのメニューは欲しいところです。

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続いて矢掛町へ。まず、フルーツ狩りやBBQなどができる水車の里フルーツトピアさん。


特別に、朝摘みのいちご「さがほのか」を試食させていただきました。大粒で、とても甘い!「アメリカのいちごとはぜんぜん違う」とジェナさん。

個人の外国人観光客はまだあまり来ていないとのことで、インバウンド対応はこれからというフルーツトピアさんですが、基本的な接客会話をJJコンビに熱心に尋ねておられました。新鮮なフルーツを売っているということで、「飛行機に持ち込んで、自国に持って帰ることはできません」ということは販売時にお伝えしておく必要があります。

★ここで「おもてなし向上ポイント」
売れ筋商品には、英語など他の言語のポップも表示して注目を集めよう!

売れ筋商品には、よく日本語で「大人気!」などのポップがつけられています。こういうポップはことばがわからなくても「なにが書いてあるんだろう?」と気になるもの。全部の商品ではなくても、売れ筋商品やおすすめ商品の何種類かだけでも、英語や中国語などのポップをつけておけば、視線がそこに留まります。むしろ、こうやっておすすめ商品をあえてしぼってしまえば、対応もしやすくなります。

お手洗いや扉には他の言語でも表示を!

お手洗いや、観光客が間違って開けてしまいそうな扉には、簡単な表示をしておきましょう。その際、単純にことばを置き換えるだけではなく、「伝えたいこと」はなにかを念頭に置いて発想を転換する工夫が必要です。たとえば「関係者以外立入禁止」という表示。「立入禁止」というと「KEEP OUT」としてしまいがちですが、この場合は「STAFF ONLY」という表示のほうが適切です。言われてみれば、「KEEP OUT」ってちょっと怖い感じがしなくもないですしね...

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次に伺ったのは、やかげ町家交流館

お雛さまがお出迎え。

古民家を活用した観光案内所で、矢掛町の特産品を集めたショップやカフェも併設されています。また、町の人たちの交流拠点でもあります。こちらでは現在外国人観光客用に英語版の地図や資料を作成中。町の地図には観光名所だけではなく、レストランやスーパーマーケット、郵便局なども載っています。旅行していると、こういう細かい情報がわかると助かりますね。

★ここで「おもてなし向上ポイント」
お店は、店名などの固有名詞ではなく「Supermarket」など、普通名詞で載せる

地元の感覚ではお店の名前を書いてしまいがちですが、よそから来た人たちには、お店の固有名詞が書いてあっても、なんのお店だかわからないことがあります。また、レストランのジャンルは、訪日外国人向けの地図では、たとえば「Okonomiyaki」とあっても、どんな料理だかわからない場合も。確かに、「Okonomiyaki(Japanese savory pancake)」などと、ちょっと補足してあげるとイメージしやすいですね。

やかげ町交流館には、町の見所や大名行列などの日本文化、特産品について説明した英語の資料も用意されています。英文についてJJコンビにチェックしてもらったところ、「すごくハイレベルだし、わかりやすい」と驚いていました。細かい文法ミスや、ちょっとした言い回しなどを少し修正してくれましたが、これだけで印象はぐんと変わります。

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最後に伺ったのは、古民家を改装して、宿場町矢掛の雰囲気を再現した旅館、矢掛屋INN&SUITESさん。

和モダンな雰囲気がすてき。

矢掛屋さんも、これからますます増えていきそうな訪日観光客への対応策として、WEB、パンフレット、宿の案内や温泉の入り方の説明など、英語版資料を作成中。日本の伝統的な旅館だけに、異国情緒をたっぷりと味わいながら快適に過ごしていただくためには、文化の違いをふまえていただかなければならない場面も。

矢掛屋さんは宿での過ごし方からおすすめの散策ルートまで、バラエティに富んだ細やかな資料を用意されています。このように、いつでも、必要な時にゆっくりと確認できる資料や、指さしでやりとりできるシートを用意しておけば安心ですね。

★ここで「おもてなし向上ポイント」
翻訳は、ネイティブスピーカーにチェックしてもらう

海外で「怪しい日本語」の表示を見たことがありませんか?なんとなく意味はわかるけど、どこかヘン。こうした文章を避けるためには、ネイティブスピーカーのチェックが欠かせません。文法やスペルだけではなく、言語特有の文化や感覚がわかる人にチェックしてもらうと、文章の質がぐっと上がります。とはいえ、たとえば英語版だけ用意する場合、あまり凝った表現にしてしまうと、英語圏ではないお客様には理解してもらえないこともあるので、「シンプルに、わかりやすく」まとめてもらいましょう。

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言われてみれば「なるほどなあ」と思うことばかりですが、意外と気づかなかったり、抜けていたりするものですよね。心に留めておきさえすれば、すぐに実践できそうなアドバイスをたくさんいただけて、とても勉強になりました。


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